




続きは↑の設定で書いたバティハリの導入小話
クラウチ家に手紙を届けたふくろうは初夏の朝日を浴びて毛づくろいをしている。
このふくろうに水と餌を与えることがこの家の一人息子であるバーティの朝一番の仕事だ。
小さなカップに水を張り、砕いたクラッカーを手のひらに乗せると食い意地の張った雌ふくろうはバーティの手を抓りながら大口を開けて食らいついた。
鼠と茶のまだら模様にぎょろりと剥き出しの目をした雌ふくろうをバーティは心底嫌っていた。
手に残った食べかすは彼女の背を撫でるふりをして拭っておく。
「バーティとキティは今日も仲良しね」
「おはようございます、お母様。今日のお手紙です」
母がそっと肩を抱き、バーティの丸い頭のてっぺんにキスを贈る。バーティは振り返って母を抱きしめた後、手紙を渡した。
毎朝の決まったこの挨拶のために無作法なふくろうの世話を引き受けているようなものだが、いつか下の兄弟ができたら早々に引き継いでやりたいとバーティはいつも考えていた。
食べかすを背負って飛び立つふくろうを見て機嫌を良くしたバーティは食卓の席についた。牛乳で満たされたグラスが汗をかくのをじっと見る。
クラウチ家の食事は愛妻家の夫が妻に完璧な紅茶を振る舞うことから始まるのだ。
ウィンキーが食器を下げたあと、母は届いた手紙を呼び寄せて封を開ける。その横で父は日刊予言者新聞を広げて出勤までの時間を静かに過ごすのが毎朝の光景だった。
バーティは魔法用語大全を適当なページで開いて眺めた。去年の誕生日に父から贈られたもので、じっくり目を通してもう五周目になる。母に手紙が来ない日は同じソファに座って読み聞かせてもらえるのだが、今朝は三通も手紙が届いていた。母は届いた手紙にはすぐに返事を送らないと気が済まない人だった。
あと半年も経てばバーティは六歳になる。そうすると家庭教師がやってきて一日中勉強漬けの日々になることをバーティは知っていた。
母が実家から連れてきた不細工なふくろうの世話にも、ぬるくなった牛乳にも、母の手が離せないときに耳元でキーキーと喚くウィンキーの音読にも、バーティは文句を言ったことがなかった。
だから、今日くらいはわがままを言っても許されるだろうか。
誕生日でも記念日でもない何でもない日に、手紙を置いて本を読んでほしいと。
「バービー!」
俯いて本の角をいじっていたバーティの耳に父の悲鳴が飛び込んできた。
母は手紙に顔を埋めて震えている。
「あなた、エマが、あの子が……!」
エマは母の妹の名前だった。母より先に結婚して以来姉妹が顔を合わせることはなかったが、その代わり週に一度は必ず手紙を送り合っていて、バーティもその名前を覚えていた。
けれども、今日の手紙の差出人にエマの名前はなかったはずだ。
「すぐに魔法省に行って確認してこよう。守護霊を送るよ。それまで君は部屋で休んでいなさい」
事情がわからないながらも嫌な予感がしたバーティは、震える母と湧き出る自身の不安を慰めるように駆け寄って母の手を握ろうとした。
パシン!
バーティの手は父によって叩き落され、呼び出されたウィンキーに向かって押し付けられる。
「お前も今日は部屋にいるんだ。いいか、絶対に部屋から出るんじゃないぞ!」
「はい、お父様……」
ウィンキーに連れられて自室に戻ったバーティは整えられたベッドに力任せに飛び込んだ。枕元にあったテディベアの腕を掴んでやみくもに振り回す。
その拍子にクマの腕がちぎれて勢いよく天井にぶつかる光景を想像して笑って、息を吐いた。
その日から丸々一週間、バーティは部屋から出ることができなかった。
バーティが部屋から出ることが許されてさらに一週間が経つと、二人はエマの家へと向かった。
エマとその夫は闇の魔法使いに襲撃されて死んでいた。
彼らの葬儀や遺産などの手続きを済ませるために両親は二、三日家を留守にするそうだ。
「いい子にして待っているのよ、あまりウィンキーを困らせないでね」
そういって頭を撫でた母の手を、追いかけることはできなかった。
二日後の昼、バーティが隣に並べたテディベアに逆さまにした魔法用語大全を読み聞かせていると、暖炉の火が緑色に燃え上がった。
すぐに本を閉じて暖炉のそばに駆け寄る。
「お母様!」
「ただいま戻りましたよ、バーテミウス」
一度目の明滅で現れた母は家を出たときからは想像もつかないほどの笑顔でバーティを抱きしめた。
妹を亡くして憔悴していた母の急激な変化に、バーティは気味が悪くなり背筋を寒くした。悪い妖精が子どもを拐うために親に成りすます童話の内容が嫌でも思い出されていく。
距離を取ろうと一歩後退ると、再び暖炉が緑の炎を吹き上げた。
父もおかしくなっていたらどうしよう、と悪い想像が瞬時にバーティの頭の中を埋め尽くした。
「バーティ?」
母が息子の異変に気付くのと、暖炉から二人の人影が現れること、そして恐れから不安定になったバーティの精神が魔力を暴走させることすべてが同時に起こった。
魔法用語大全、テディベア、燭台、飾られた皿と花瓶等々……。
バーティがこの部屋にあると認識していた全てのものが暖炉に向かって猛烈なスピードで投げ込まれていく。
「バーテミウス、やめて!」
「プロテゴ!」
「アレストモメンタム!」
悲鳴を上げる母が、それでも物が息子にぶつからないようにと抱きかかえて伏せる。
「お母様……?」
押し付けられた母の胸から聞こえる心音と温かさで、バーティはやっと悪い想像から抜け出すことができた。
「ふむ、どこでそれを覚えた?」
「僕が何度も箒から落ちるので、そのたびに母が……」
「なるほど。とんだ腕白小僧だな」
嫌がる様子を隠しもせずに父はそう吐き捨てた。
上機嫌の父が満面の笑みでハグをするような気配はないので、こっちは間違いなく本物のようだ。
しかし安心できたのも束の間。その父の隣には見たこともない子どもが居心地悪そうに立っている。
「バーテミウス!」
「はいっ!」
突然名前を呼ばれたバーティはピンと背筋を伸ばした。
「これはお前がやったのか?」
「え?」
これと言われてもなんのことだか分からなかったが、母が嬉しそうに頭上を指さす。そこでやっと、部屋中の小物が空中で停止している状況に気がついた。
「これ、ぼくがやったの……?」
「そうなのかと私が聞いているんだ」
「ご、ごめんなさい」
バーティには身に覚えがなかったが、父の言い方では悪いのは自分に違いない。この後の対処法もわからないので、俯いて謝るしかできなかった。
「クラウチさん、素直に喜んであげたらいいじゃないですか」
「……」
喜ぶ?なにを?
謎の子どもが言うことを否定せず黙ったままの父の様子が気になってちらりと見上げてみる。
父は百味ビーンズのハズレ味を食べたときの顔をしていた。
「えーっと、バーテミウスくん?」
「……はい」
「魔法を使ったのはこれが初めてかい?」
「魔法?ぼく、魔法を使ったの?」
「そうさ!今日から君は立派な魔法使いだ!」
「!」
彼の言葉はまさにバーティが望んでいたものだった。
バーティは赤ん坊の頃から大人しかった。夜泣きもせず、決まった時間にミルクを要求し決まった時間に寝る。意思が芽生える頃になっても癇癪を起こさず聞き分けよくわがままを言わなかった。
その代わりに、強い感情の発露に伴う魔力の暴走が起こることもなかった。
魔法族の、しかも純血家系の子どもは魔力の発現が早い。けれどもバーティは今の今まで魔法の気配すら匂わせることはなかったのだ。
この両親の不安は当然バーティにも伝わっており、彼は魔法以外のことで自分の価値を示そうとしていた。
「バーバラさん、今日はごちそうにしましょう!」
「……!で、でも、」
にこりと微笑む少年につられて母も頷きそうになったが、すぐに思い留まっていた。どこか少年を気遣う様子に、母と少年の顔を交互に見比べる。
「両親のことはこの二週間でだいぶ整理がつきました。色々な手続きも済ませてくれてお二人には感謝しています。ですが、それはバーテミウスくんのお祝いをしない理由にはならないですよね?」
「そうだけど……ハリー、あなた無理してるんじゃない?」
母がハリーと呼ばれた少年の手をそっと握る。
「無理なんてしてません。僕が新しい弟のためにお祝いしてあげたいんです。クラウチさんもそうでしょう?」
「……」
急に話を振られた父はじろりとハリーを睨んで、その次にぼくを見た。
「……」
「決まりですね、バーバラさん!」
「そうね!ウィンキー!ウィンキー!」
「ウィンキーはここに!いかがなさいましたか、奥様!」
手を叩いてウィンキーを呼ぶ母はいつになく嬉しそうだ。
「今日はめでたい日なの、バーティの好物をうんと作って頂戴!」
「まあ!かしこまりました、奥様。このウィンキーめにお任せください!」
嵐のように去っていったウィンキーのあと、バーティは改めてハリーと呼ばれる謎の少年を見上げた。
くしゃくしゃの黒髪に緑色の大きな目。写真で見たどの親戚にもいないような顔立ちだった。
バーティの視線に気付いたハリーは目線を合わせるために膝を折った。
「はじめまして、バーテミウスくん。僕はハリー。バーバラさんの妹の、エマ叔母さんの息子だよ」
そう言ってハリーが差し出した手をバーティはじっと眺める。
そのままでいると見かねた母が間を取り持つように二人の背中に手を当てた。
「いろいろあって私達が引き取ることになったの。だから、バーティのお兄さんになるのよ」
「ぼくの兄さん?」
「こんなに可愛い弟ができて嬉しいよ!僕もバーティって呼んでいい?」
同年代の友達もあまりいないバーティはこんなに無邪気な笑顔を向けられたことがなかった。まじまじとハリーの顔を見ながらも無意識に手が伸びていた。
「バーティ、お返事は?」
「ん、うん。いいよ。よろしくね、兄さん」
斯くして、一人息子のバーティには兄ができた。
その兄が雌ふくろうの世話係になるのも時間の問題である。
うっかり血が繋がってしまったので、異常なブラコンバティ+ハリになるかもしれない。
これにはエマの実子として生まれたパターンと、旦那の連れ子だったパターンがあります。
続きは特に考えていないので、設定はフリー素材です!バティハリください!